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4月30日から開催される約2年振りのアコースティック・ライブツアー“GREEN MIND 2014”に先がけて、4月23日にニュー・シングル『ダイアローグ・モノローグ』をリリースする秦 基博。過去の自分と対話しながら進んでいくこの新曲は、現実と向き合いつつ、自分自身を叱咤激励しながら、明日に向かっていくための勇気をくれるポジティブなメッセージソングだ。
Photo:外山 繁 Text:大畑幸子

──新曲『ダイアローグ・モノローグ』の曲想を練ったのはいつ頃ですか?

「去年の11月ぐらいに曲作りをしていて、その時に4~5曲書いたんですけど、この『ダイアローグ・モノローグ』は、その中の1曲ですね。去年で言うと、『Signed POP』(4thアルバム/1月)があって、シングルの『言ノ葉』(5月)があって、『Girl』(『Signed POP』収録/ヨコヤマタイヤBluEarth CMソング)が街中でよく流れた1年だったので、傾向としてメロディアスでポップなものが続いていたんですけど、そういう意味では、次の新しいタイミングでどういうものを表現していくかってことをすごく考えていました。で、色々考えていくうちにやっぱりいいメロディーというところは受け継ぎたいなと思って。そこを踏まえた上で、サウンド面で新しさを出せたらいいなと思ったんですよね」



──新しいサウンド面のビジョンというのは?

「まず曲を書いている時にギターの8ビートがあって、それに合うリズムを考えていた時に、4つ打ちが合うなっていうイメージがあったんです。で、プリプロをしている段階から色々試していったんですけど、ちょうどこの曲を作っている頃に、COILの佐藤洋介さんに音源の相談をしていたんですよね。洋介さんはエンジニアもされているので、“ビートを打ち込むのにどういう音のバリエーションがありますか?”って。そうしたら、洋介さんがビンテージ・ドラムマシーンの音源ソフトをプレゼントしてくれて。それをおもちゃ代わりに試しているうちに、この曲のリズムを全部打ち込みにしてみようっていうアイデアが浮かんだんです。それまでは生ドラムの音源を使って作業していたんですけど、それをもらったソフトの音に差し替えたら、グンとこの曲の温度感が出てきたんですよ。それが面白いなと。以前から打ち込みと生楽器を融合させることは好きでしたからね」

──そういった無機質なものと生楽器のバランスには気を使ったのではないですか?

「ええ。そのへんのバランスがすごく大切だったなぁと思いますね。秦感っていうか…リズムの音色もそうだし、それにエレキとオルガンを入れてみようとか、生のピアノじゃなくて、あくまでもエレピだなとか、エレキの音色をどうしようかなとか。1つ1つの音のチョイスは、その曲の持っているカラーに合わせながら、最終的に、自分がこの曲をどう仕上げたいかってところに向かっていったという感じですね。例えば、ベースの音もそうだし。ピックで弾くのか指で弾くのか、だったら親指で弾くのかとかね。それはベースのミックさん(美久月千晴)に“こういうのもあるよ”って実際に色々弾いて聴かせてもらって、その中で自分のイメージに近いものをお願いしたんですけど」

──歌詞はどういうふうにイメージを広げていったんですか?



「“思うようには生きられないこの世界で”っていうサビの1行目が、曲を書いた時から浮かんでいたんですよね。そのメロディーと言葉のハマリ方は動かしがたいものがあって。最初からこのフレーズがこの曲の顔になっていたので、それをどうストーリーに展開していくかってことを考えながら書いていきました。“思うように生きられない世界”っていう言葉だけだと、すごくネガティブな感じだし、世界を悲観して捉えていることにもなりかねないと思ったので、この曲はそこで終わらせないというか、それをあくまでもポジティブに捉えられる自分っていうのを描けたらなと」

──時代的な背景として、この数年に感じている閉塞感みたいなものから、そのサビの1行が出てきたという感じでしょうか?

「きっとそれはあったと思いますね…意識的に出したわけじゃなくて。立ちゆかない感じというか。それは常に感じていると思いますね。でも、それによって自暴自棄になったり、前進することを止めるっていうのは違う気がするし。そういう中で今の自分は何が言えるのかなってことを考えていくうちに、できることを見つけてやっていくしかないよなって思って。生きていくことっていうのはその連続なんだと思うし、そういうことを表現できたらいいなと思いましたね」

──この詞は自分自身を見つめていますよね。タイトルの“ダイアローグ”の“対話”という意味が示す通り、過去の自分と今の自分が対話しながら、未来に踏み出す自分に叱咤激励しているというか。

「ですね。歌詞の書き方についてもすごく悩んだんですよ。この曲はどういうふうに進んでいけばいいのかって。それを考えていく中で、“君”っていう過去の自分に語りかけていく形がいいかなと。過去の自分に語りかけることで今の自分にも言い聞かせたり、またその先に向かっていこうとする主人公を描けるといいなって思った時に、この曲のゴールが見えたんですよね。この曲のリズムが坦々と進んでいくことが、時の流れを表しているような気がしたし。そこで歌詞の最初の“廻る時計の針”っていうフレーズが出てきて、過去と今を行ったり来たりするみたいなストーリーに繋がっていったと思いますね」

──考えてみたら、歌詞を書くこと自体が自分との対話ですもんね。

「そうなんですよ。ある種、特殊なことかもしれないけど。結局は自分の中に答えがあるようなことって、多いと思うんですよね。もしかすると答えがないのかもしれないけど、やるしかなかったりするじゃないですか。それって自分次第だったりするから。自分の中に答えがあるのなら、意志を持ってやるしかない。それが合っているか合っていないかは二の次だと思うんですよ。歌詞の中でも“間違いなんてないんだ”って歌っていますけど、それは結果的にどうなるかなんて誰にも分からないし、その時々、その瞬間で自分なりにやっていくしかないってことが、この曲の根底にありますね」

──確かに“間違いなんてない”って自分で言い聞かせることって大事ですね。

「いつも、常に自信満々だったらきっといいんでしょうけど、揺らいで悩んで迷って、俺はこれでいいんだよなって思いながら進んでいくことっていうのは、昔の自分も今の自分も変わらないんです。じゃあ、それで何をするかってことがちょっとずつ変わってきているかもしれなくて。だから、過去の自分を思い返して今の自分を肯定してみることって、たくさんあるような気がしますね」



──秦さん自身も歌詞にあるような“痛みは強さに変えられる”と思われているんですか?

「そうじゃないとツラいなってこともあるし(笑)。でも、やっぱりそうなんだと思いますね。悩んだことって自分が傷ついた分、どんどんタフになっていくと思うし。成長するってこととも近いような気がしますね」

──“乗り越えられるよ”というラストの歌詞があることで、全体の歌詞を生かしている感じがしますね。背中をポンと押してくれたような感覚で聴き終わるのがいいなぁと。

「この曲の最後は何がいいのかなってすごく悩みましたけど、この言葉をラストに言うことに意味があるなって思ったんです。だから、今言ってもらえたみたいに、聴いてくれる方々の背中を押せるような曲になればいいなと思いますね。この曲自体が小さな世界に留まらないようにしたいと、歌詞を書きながらずっと考えていたので、“君”という存在を登場させたというのもあります。色々な状況に置かれている人にも、どこかに自分の居場所を見つけて聴いてもらえる曲になるといいなぁと思っていました」



※続きは月刊Songs5月号をご覧ください。

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