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6月3日にリリースされる秦 基博の新曲『水彩の月』は、河瀨直美監督の最新映画『あん』(主演・樹木希林、5月30日公開)の主題歌。映画にピッタリと寄り添い合った今曲は、聴くほどに胸を打たれる静穏なバラードに仕上がっている。この楽曲に加え、彼の幅広い音楽性をうかがえるカップリング曲をたっぷりと味わえる必聴のニュー・シングルについて話を聞いた。
Photo:駒井夕香 Text:大畑幸子

──新曲『水彩の月』は、静謐な手触りのミディアム・バラードですね。この新曲は映画『あん』の主題歌ですが、河瀨直美監督からのラブコールだったとうかがっていますが?



「河瀨監督と最初にお逢いしたのは、僕の2013年に行なった“Signed POP”ツアーの奈良公演を観に来てくださった時で、それからのご縁なんですよね。で、昨年12月に“シンクロニシティ”というトーク&ライブセッションのイベントでお仕事をさせていただいた時に、河瀨監督がちょうど『あん』を制作中だったんです。その流れの中で今回、主題歌のオファーをいただきました。監督からはまず映画を観てから思うところを書いてほしいということで、0(ゼロ)号試写と呼ばれる仮編集段階の試写会に参加させてもらったんです。印象的だったのは静かなる強さみたいなもので、そこで僕の中に広がったサウンドのイメージはピアノの音色でした。この映画にはピアノが似合うなって思って、そこから色々と曲を考えていったんです。歌詞に関しては映画が伝えようとしていることだったり、テーマだったりを自分なりにすくいとって描きました」

──映画を観て秦さんが感じたことは?

「まず“生きることの意味”ですね。僕らは成長を続けていく中で、自分が生きている意味って何だろう? って探したりするじゃないですか。でも、この世に生まれ落ちた時点で意味があるんだということが、この映画から感じたメッセージでした。河瀨監督の作品は、セリフとか役者さんの表情ももちろんなんですけど、景色の描写自体にも色々なメッセージが隠されているというか、色々なことを物語っているんですよね。それって、自分のことと照らし合わせてみても、音楽を作ることと似ているような感覚があるなって思ったんです。音楽も言葉で言い切れないこととか、一言で言えないこととかを何とか歌にしようとするわけで。だから、そのへんが1つのヒントとなって、サビの“話せなかったことがたくさんあるんだ”っていうフレーズに繋がっていったんだと思いますね。そういう上手く言葉にならないことを言葉に置き換えるんじゃなくて、大きく言えば、話せなかったことを自分が生きていくことで示していく…そんな決意みたいなものを歌にしたんです」

──実際に制作に入ったのは?

「今年の1月ぐらいです。最初にメロディーから作って、全体的なアレンジを考えて、歌詞はあとから書きました。出だしの“ねぇ もしも~”というフレーズがメロディーと一緒に出てきたので、“もしも”何だろうな…とかね。“もう一度会えるとしたら”どうするかなとか、そんなことを1つずつ考えて書いていったんですよ」

──歌詞のお話になったのでその流れでお聞きしますが、そうやって1つずつ考えていく中で先ほど話していた“話せなかったことがたくさんあるんだ”というサビのフレーズに繋がっていくわけですね。

「はい。結局あの時、こうすれば良かった、ああすれば良かったってことはいっぱいあるけど、例えまた同じ状況になったとしても、やっぱり言えないままなんだろうなと思ったんです。もっと上手にやればいいんだろうけど、うまく立ち回ることができないとか。そういうところにリアリティーがあるような気がしたんですよね」

──秦さんが映画から感じた“生きる意味”が、しっかりと大サビの部分で表現されていますよね。それは“ひたむきに生きていくことの美しさ”なのかなと思ったりするわけですけど、それは映画とリンクすることでもあるし、もっと言えば、私達が日常を生きていく上でのリアルな指針でもあるなと感じたりしました。

※続きは月刊Songs6月号をご覧ください。

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