AKIHIDE *撮り下ろし4ページ |
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──音楽で世界を旅した前作『月と星のキャラバン』から1年、5thアルバム『ふるさと』で“和”をテーマにガットギターで四季の物語を綴ろうと思ったキッカケは、どこにあったのでしょうか?
「2015年の2月に『月と星のキャラバン』をリリースしたあと、東京国際フォーラムホールCでのライブで、今回のアルバムに入っている『待雪草』を披露したんですけど……音楽で世界旅行をしてみたことで生まれた、その日本的な『待雪草』がキッカケでした。今度は“和”をテーマに、ガットギターで1月から12月までの情景を描いてみようかなと思ったんです」
──結果、月ごとに見せるガラっと異なる表情それぞれに心が動く作品でもあるわけですが、一般的なその季節のイメージとはまた違った視点で描いているところに、AKIHIDEさんならではの感性が光るなと。例えば、『桜の森の満開の下』なんかには、春のうららかさではなく緊迫感のようなものが漂っていたりとか。
「坂口安吾の小説と同じタイトルにしたのは、そのおどろおどろしく妖しい世界観に影響を受けたからでもありました。桜って華やかさもあるけど、1週間くらいで散ってしまうし、僕の中では儚いものっていうイメージもあるんですよ。父親が亡くなったのが春で、周りは楽しそうにしている中、自分は暗く沈んで桜の木の下を歩いたっていうコントラストが鮮烈に記憶に残っていたりもするので。もともと、清濁や白黒など相反するものをひとつの作品に込めるのが好きだったりもするし、美しさの裏に恐ろしいものが潜んでいるような、そういうスリリングな曲にしたかったんです」
──『ジェリーフィッシュ』なんかにしても、爽やかで開放的な夏ではなく、終わりゆく夏の愁いが描かれていますし。
「真夏ではなく、海に海月(くらげ)が増えてくる夏の終わりくらいのイメージですね。確かに、寂しさとか孤独感みたいなものが出ていると思います」
──逆に、寒い冬に向かおうとする侘しさの中で、ジャジーな『秋風スウィング』が心を温めてくれたりするんですけど。
「冬に向かうからといって暗く沈まずに、秋風の中を闊歩しているような雰囲気も出したくて。ジャズの名曲『枯葉』のコード進行を途中に取り入れていたり、そういうオマージュもありながら、楽しく前に進めるような曲になればいいなと」
──タイトルに反してウォームなサウンドが安らぎをもたらしてくれる『氷雨』も、心地よい躍動感があります。
「冷たい雨が降る中でも、待っている人がいたり、行くべき場所があるなら出かけよう、という力強さみたいなものを出したくて。ブラジルのパーカッションが入っていたりしますからね」
──あと、アコーディオンも?
「入っています。前作の『月と星のキャラバン』ではかなり弾いてもらったんですけど、アコーディオンならではの哀愁感が『氷雨』でもほしくて」
──そういった、ちょっと変わり種な楽器とのコラボレーションも耳に楽しいなと。先ほど話に出た『桜の森の満開の下』では、能管や尺八、笙(しょう)の音が聴こえてきたりもして。
「桜の下に鬼なのか神様なのか分からない異形のものが降りてくる雰囲気は、和楽器でこそ出せるかなと思ったんです。ちなみに、後半では篳篥(ひちりき/雅楽やその流れを汲む神楽などで使う管楽器)を吹いてもらっているんですけど、雅楽で使う篳篥や笙と、能で使う能管は本来一緒に演奏しないそうなんです。そういう通常はあり得ないコラボレーションも、刺激的だったし面白かったですね」