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2010年に映画化されたベストセラー『武士の家計簿』などの著作で知られ“平成の司馬遼太郎”との呼び声も高い磯田道史の『無私の日本人』が、中村義洋が監督を務め『殿、利息でござる!』として実写映画化。造り酒屋を営むかたわら、宿場町の行く末を心配する主人公・穀田屋十三郎を演じるのは老若男女幅広い層のファンを持つ阿部サダヲ。久々の時代劇だったという撮影でのエピソードから好きな音楽までタップリと語ってもらった。
Photo:秋倉康介 Text:奥村百恵

──最初に台本を読んだ時の感想はいかがでしたか?



「実話と聞いてから読んだのですが、こんなにカッコいい男達が当時の日本にいたのかと驚きました。僕が演じた穀田屋十三郎という役は主役ではあるけど、そんなに出ずっぱりはしない、控えめな感じがすごくいいなと思いました(笑)」

──中村義洋監督とは『奇跡のリンゴ』(2013年)以来のタッグでしたね。監督の魅力をどんなところに感じますか?

「役者1人1人のお芝居をすごく細かく見てくれるところです。セリフを言っている人を撮るだけでなく、周りのリアクションもちゃんと撮っている。役者は結構リアクションを大事にしているところがあるので、それを大事にしてくださるのは嬉しいです。あと、監督はダメ出しを耳元でボソボソっとささやくんですが、それが逆に怖くて(笑)。でもその“怖さ”というのが現場に緊張感をもたらしますし、大事なことなんじゃないかなとも思います。もし監督が今後コメディー作品を撮ることがあったら、その時はまたご一緒できたら嬉しいです」

──監督とは役作りに関してどんなお話をされましたか?



「黒澤 明監督の映画『生きる』の志村 喬さんみたいな感じで演じてほしいと言われました。『生きる』の志村さんの演技は劇中ずっと目がギラギラしているので、監督からは“もうちょっと目を開いて!”と言われたり…そんな感じで役作りというか顔作りをしていきました(笑)」

──(笑)。阿部さんご自身が役作りにこだわった点はありましたか?

「映画の途中まで十三郎は色んなことを勘違いしているんです。そんな十三郎のことを、観客が“何でこの人、こんなに頑固なんだろう?”“何だこの人!? 大丈夫かな?”というふうに思ってもらいたかったというか。途中で父親のことや弟の事情なんかが分かってからは、お客さんも“何だそういうことか”と分かってくれると思うので、そこまでのお芝居は気をつけて演じていました」

──十三郎さんの弟役を演じた妻夫木 聡さんはいかがでしたか?

「妻夫木くんのことは若い頃から知っていましたけど、今回ご一緒してみてお芝居に説得力を感じました。妻夫木くんは中村組初参加だったんですが、監督が“妻夫木くんは役にピッタリで良かった”とおっしゃっていて。僕がわりと大きめの声のトーンで演じているところを、妻夫木くんは静かめのトーンで演じていたのが印象的でした」

──久々の時代劇への出演でしたが、改めて時代劇の面白さを感じたりしましたか?

「普段は着物を着ないですし、ちょんまげも結わないので、そういった扮装ができるだけでも時代劇は面白いと感じました。あとは、今回の現場で役者の先輩方は皆さん正座が苦手だということが分かりました(笑)。長時間正座してないといけない撮影だったので、カットがかかった瞬間に皆さん“あ〜”と言いながら倒れ込んだりして(笑)」

──長時間の正座はツラいですよね(笑)。では所作で苦労した点は?



「指同士をピッタリとくっつけて両手を床につけるシーンがあるんですが、所作の先生から“阿部さんは小指だけ離れがちだから気をつけてください”と言われまして…。自分では今まで気がつかなかったので、そこを意識するのに苦労しました。でも自分が知らないことを教えていただけるので、やはり時代劇は面白いなと思います」

──今作はコメディー要素もありつつ、町や人のために己の私財を投げ打つひたむきな人達の姿もしっかりと描かれています。

「喜劇の要素もありますが、その分、宿場町を守る人達をきちんと描いている。だからこそ笑わせようとしているのではなく、真面目すぎてつい笑ってしまうおかしさがあるというか。でもそれは本気で演じてないとお客さんに伝わらないと思ったので、そういったことを意識して演じたのは初めての感覚でした。コメディーの作品はたくさん出演させていただいていますが、今作のような形で笑わせるというお芝居は新鮮で面白かったです」

※続きは月刊Songs2016年5月号をご覧ください。

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