http://overfence-movie.jp/
『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』に続く孤高の作家・佐藤泰志原作の函館三部作となる『オーバー・フェンス』が遂に完成した。『苦役列車』や『マイ・バック・ページ』の山下敦弘が監督を務め、結婚生活の破綻により妻子と離れ職業訓練校に通う孤独な男・白岩をドラマ『重版出来!』での五百旗頭役も好評だったオダギリジョー、強烈なキャラクターのヒロイン・聡(さとし)をイノセントな魅力を持つ蒼井 優が見事に演じている。映画『蟲師』以来9年振りの共演となった2人に、作品への思いや久々に共演したお互いについてなどを聞いた。
Photo:竹中圭樹(D-CORD) Text:奥村百恵

──最初に脚本を読まれた時の印象をお聞かせください。



オダギリジョー(以下、オダギリ)「高田 亮さんの脚本は、会話でストーリーを語らないところがすごく好きなんです。例えば、セリフが1つ1つ構築されているわけではなく、どこか欠落していたり壊れている部分が要所要所に入っている。ストレートに全てを説明せずに、セリフにあまり深くとらわれていないところが脚本家としてすごく信頼できますし、演じてみたいという気持ちにさせていただけるのは高田さんの脚本だからこそだと思います」



蒼井 優(以下、蒼井)「こういう作品に出てみたいと単純に思わせていただけるような脚本でした。山下敦弘監督の映画に出演するのは初めてでしたし、オダギリさんとご一緒するのも9年振りでしたので、お話をいただいた時はドキドキして。聡という役は落としどころが難しい役なので不安もありましたが、お受けした以上はやるしかないと覚悟を決めて挑みました」

──それぞれの役をどんなふうに捉えて演じましたか?

オダギリ「聡は一見して破綻したキャラクターだと分かるのですが、白岩は特別なものを持ってるわけでもなく、どこにでもいそうなキャラクターです。ただ、よく見つめ直すと職業訓練校の帰りにお弁当と缶ビールを2本だけ買って、テレビもないような部屋に1人帰る生活というのはどこか普通じゃないというか。実は白岩も大きく破綻しているんですよね。それを隠すために笑ってごまかしたり何でもない生活を送ろうとしているだけで、聡と白岩は似通ったキャラクターだと思いました。似た者同士だけど動と静みたいな違いがあって、だからこそ惹かれ合ってしまう。そこを強く印象に残すために、あくまでも普通であるということにこだわって白岩を演じました」

蒼井「動である聡をやりすぎないように気をつけようと思って現場に入ったのですが、実際に撮影が始まってみると自分がいま何をやっているのか分からなくなってしまうような状態でした。役に入り込むとかそういう寒いことではなく、客観性を持たないことはこんなにも不安なのかと実感したというか。演じているうちに聡が傷ついてるのか私自身が傷ついてるのか分からなくなり、しまいには白岩の冷たい目が白岩なのかオダギリさんなのかも分からなくなって(笑)。一体どうしちゃったんだろうと…こんな経験は初めてでした。そんなこともあって、“聡はこういうキャラクターです”と言えるほどの客観性は持てなかったんです」

──山下監督らしさを感じたシーンや、山下組だからこそチャレンジできたことはありましたか?

オダギリ「雲をバックにカモメがふわっと飛ぶカットが2、3回挟まれているのですが、ものすごく印象に残りましたし好きなシーンでした。ああいうカットをあそこにはめ込めるのが山下さんの面白いところだと思いますし、山下さんが20代の頃だったらああいうカットは挟まなかっただろうなとも思いました。僕も山下さんも40歳になる年ですが、僕と同世代の山下さんにとって、今作は今までの経験があるからこその作品になったのではないでしょうか。僕自身も今作で試みたことはたくさんありましたが、今作に限らずいつも何かチャレンジしたいと思っているのは確かです。長く続けていると飽きますし、自分なりにやりたいことがないと現場がつまらなく感じてしまうので。どんな現場であっても関わっている全員がやりたいことをそれぞれ持ち寄って作品を作っていると思いますし、だからこそ共同作業ならではの素敵な作品が完成するんだと思います」

※続きは月刊Songs2016年9月号をご覧ください。

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