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“ミュージカルPOPS”という新たなジャンルを掲げた初のオリジナル・アルバムに、山崎育三郎は『I LAND』というタイトルをつけた。『I LAND』とは、“育三郎ランド”のこと。私達が普段生活している“日常”から離れ、夢と憧れが詰まった華やかな“非日常”の世界。そして、ここで語られるストーリーは、ミュージカル俳優を志した12歳の少年が自分らしい表現方法を獲得していく成長譚にもなっている。金の刺繍が施された赤いコートを羽織った彼が、ビッグバンドが演奏するスウィングジャズに合わせて呪文を唱え、ステッキを振ると、目の前の景色が一瞬にして変わり、夢のような世界の幕が開く──。
Photo:竹中圭樹(D-CORD) Text:永堀アツオ

──オリジナル・アルバムが完成しました。



「今回は、“ミュージカルPOPS”という言葉を掲げさせてもらったんですけども、まず、ミュージカル俳優達がチャレンジしなかった新しい世界観を作れたっていうことがすごく嬉しいですね」

──独自のジャンルですよね。その “ミュージカルPOPS”とは、どんなものだと言えばいいですか?

「これまでを振り返ってみると、自分が育った場所はミュージカルだっていうことなんですよね。今年で20年になるんですが、どこへ行っても“ミュージカル俳優”と言われますし、バラエティー番組に出たりすると、自分の立ち振る舞いや仕草が“ミュージカルっぽいよ!”って言われたりする(笑)。自分ではそう思ってなかったけど、ずっとミュージカルの世界にいたから気づかなかったことなのかと感じて。それって、もしかしたら武器なんじゃないかな、と。それが僕の個性なんじゃないかって思い始めたんです。自分の人生の半分以上、ミュージカルの世界にいるから、歌い方にしても表現の上でも、やっぱりミュージカルの色が出てくるっていうところは大事にしたいなって思って。そこで今回、アルバムを作る中でも、楽曲のアレンジやスウィングのリズムを始め、歌う時のアプローチの仕方も、あえてお芝居の歌としての捉え方で歌ってみたりしました」



──“ミュージカルPOPS”を最も象徴する曲を挙げるとすると、やはりタイトル曲でもある1曲目『I LAND』になりますでしょうか?

「そうですね。ミュージカルのオープニングのような楽曲なんですけども、ミュージカルが好きな方は、どこか夢の世界に浸れる、非日常の空間を楽しむことが好きな方が多くて。ディズニーランドが好きな人も同じだと思うんですが、例えばディズニーランドでも、パークに足を踏み入れたところから、みんなミッキーの耳をつけたりするじゃないですか。やっぱり、アトラクションに乗ることもそうですが、あの世界観に浸っている、その空間を体感するっていうことに一番価値があると思うんです。それはディズニーもミュージカルも同じで、一番の魅力だなと思っていて。なので、このオープニングの楽曲で、まず、聴いてる人を僕の世界観に誘う。ディズニーランドではないんですけれども、育三郎ランドというところで、『I LAND』にしてるんですね。“ホーカス・ポーカス(Hocus Pocus)”という呪文の言葉を歌い上げると、その空間が変わっていく。これはひとつミュージカルをイメージしやすい楽曲ですね。あと、もうひとつ挙げるとしたら『宿命』(笑)」

──えぇ!? 意外です。子どもが“新宿”と“原宿”を間違えて迷子になる、ユニークな曲ですよね(笑)。

「ははははは。これ、実話なんですよ。僕は4人兄弟の3番目なんですが、いつも1と3、2と4のタッグでケンカになって。僕が小3の時に、原宿でやってた『サルティンバンコ』(カナダのエンターテインメント集団“シルク・ドゥ・ソレイユ”の公演)を観にいったんですが、4人で移動中にいつも通りケンカが始まって、そこで僕は長男に“新宿にお母さんがいるから先に行け”って言われたんです。でも、母は原宿にいるんですよ。その時点で言い間違えてるんです(笑)。僕は初めて1人で電車に乗ったので、新宿っていう言葉もよく分からないから、唯一知っていた“新宿西口駅の前~♪”っていう歌を歌いながら新宿に行ったけれども、当然ながら母親はいなくて。ホームを何度も往復したんですけどいない。で、怖くて泣くじゃないですか(笑)。そしたら駅員さんに連れていかれて。当時は携帯(電話)もないから、全然連絡もつかず、結果、夜中の1時に母親が迎えに来たっていうエピソードが元になってますね」



──(笑)。曲中にネタバラシも入ってます。

「途中にセリフを入れて、他のポップスにはないような楽曲っていう部分では、これはかなり挑戦でしたね。1人で歌ってるところに入ってくる、天の声のようなコーラスも全部1人で声色を変えて重ねていて。ファルセットで女性の声みたいな感じでやってみたり、低い声もやったりして。コメディー・ミュージカルっぽさがあるアレンジになったし、まさに“ミュージカルPOPS”と言える1曲だと思いますね」

──夢のような世界の中で繰り広げられるお話には、ちょっと自伝的な要素も入ってますよね。

「そうですね。歌詞を書いていない『Turning Point』も僕のエピソードは伝えていて。これはアメリカ留学時代に自分が感じたことを作ってもらいました」


※続きは月刊Songs2018年8月号をご覧ください。

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