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森山直太朗が約2年振りとなるニュー・アルバム『822』をリリース。ベスト・アルバム『大傑作撰』のリリース、全国ツアー、劇場公演『あの城』など様々な活動を繰り広げてきた15周年イヤーを経て届けられる本作には、『絶対、大丈夫』『人間の森』『みんなおんなじ』などを含む全11曲を収録。この2年間の中で生まれた楽曲には、森山直太朗の新たな表現が濃密に刻み込まれている。言葉にできない感覚を歌として響かせる──彼が追求してきたものは、本作によってさらなる高みに達していると言っていいだろう。
Photo:木村琢也 Text:森 朋之

──ニュー・アルバム『822』、素晴らしいです。前作『嗚呼』以降の約2年間の軌跡がしっかり刻まれた作品だと思いますが、制作にあたってはどんなビジョンがあったんですか?



「フル・アルバムを作ろうかという話が挙がった時点で、かなり曲が揃っていたんですよ。『絶対、大丈夫』『罪の味』『糧』『みんなおんなじ』など5〜6曲分くらいはすでにあって。そのことを踏まえて、“あとはあまり考えすぎずに作っていこう”という感じでしたね。前作の『嗚呼』の時は“こんなアルバムにしたいね”という、わりとハッキリしたキーワードがあったんだけど、今回はそれが全然なくて。普段だったら“こういう編成の曲が多いから、バランスを取るために違うタイプの曲も入れよう”ってバランスを取ろうとするけど、それも全然なかったんです。あとはそうだな、“今回はエネルギーだね”みたいは話もしていて」

──エネルギーというと?

「具体的なことではなくて、“フルスイングできたかどうか? 全力で楽しめたか?”ということなんですけどね。制作に対して無邪気に没頭して、その場を面白がるというか。それはいつも問われているところなんだけど、今回はより強く意識してたかもしれないですね。まず御徒町(御徒町凧/詩人、劇作家にして、森山直太朗名義の楽曲の共同制作者)、河野さん(河野 圭/宇多田ヒカル、EXILEなど数多くの楽曲を手掛けているプロデューサー)、僕のトライアングルがあって、そこにスピッツなどを手掛けてきた竹内 修さんだったり、今回初めてご一緒する方々も加わって。この場所(取材が行なわれた、都内某所にあるプライベートスタジオ)の存在も大きかったですね。皆さんもすぐに分かると思いますけど、何時間でもいられるんですよ、ここ。色んな人達が遊びに来てくれて、ダラダラとどうでもいい話をして。何ていうか、“どこで誰と、いつ、何をするか”って全ての基本じゃないですか」

──確かに。

「気心の知れた人達とここに集まって、色んな話をして。それがどんどん濃くなって。そういう意味の“エネルギー”ですよね。取って付けたような物言いかもしれないけど、昨今、薄まりがちな人と人との触れ合い、語らいがあったというのかな。その合間に“せっかくだから、演奏していってくれる?”っていう」

──(笑)。この場所でレコーディングできるんですね。

「去年、機材を入れたんですよ。ただ、この部屋の雰囲気がどこかルーズだから、緊張感がないというか(笑)、録り始めたはいいけど“明日また来るよ”みたいなこともあって。時間を気にしないでずっと使えるからそうなるんだけど、そのノリも好きなんですよね。ここで曲を作ることもあるし、録音もできるし、ラジオの収録や取材もやっていて。夢のような場所なんですよ、ホントに。ここでレコーディングしちゃおうよって言い出したのは、河野さんなんですけどね」

──『822』というアルバムを生み出すために、この場所が必要だった、と。すでに発表されていた楽曲以外の曲については?

「アルバムのために新たにレコーディングしたのは、『出世しちゃったみたいだね』『自分が自分でないみたい』『時代は変わる』『やがて』『群青』などですね。作った時期はそれぞれ違っていて、例えば『出世〜』『時代〜』はずっと前からあった曲なんです。アルバムを作るたびに“どうですかね?”ってプレゼンしてたんだけど、“今じゃないかな”ということが続いて。この2曲を収録できたのは“念願叶って”という感じですね」

──なるほど。『自分が自分でないみたい』は劇場公演『あの城』の中で歌ってましたよね。

「そうですね。『自分が〜』も実はずっと前に作った曲で、『あの城』の時にたまたまハマったというか。ストック曲かどうかは聴く人には関係ないかもしれないけど、こちら側にとっては新鮮味があまりなかったりするんです。そこは河野さんの独特の感覚で、新しいミュージシャンの人達に参加してもらったり、コーラスに友部正人さん(『出世しちゃったみたいだね』にコーラスで参加)、うちの母(森山良子/『時代は変わる』にコーラスで参加)に入ってもらうことで、楽曲に新しい息吹を加えて」

──『出世しちゃったみたいだね』にはOKAMOTO'Sのハマ・オカモトさん(B)、プロデューサーとしても活躍しているmabanua(Dr)さんが参加。確かに新鮮なメンバーですよね。

「レコーディングもめちゃくちゃ楽しかったですね。やっぱり河野さんが連れてきてくれた人達なんですけど、僕も河野さんも新しい出会いを楽しんでいたので。『人間の森』は世武裕子さん(映画、ドラマなどの音楽を数多く手掛ける音楽家。シンガーソングライターとしても活躍)にピアノをお願いしました。“この曲のピアノは女性がいいと思うんだよね。できれば弾き語りもできる人にお願いしたいんだけど”みたいな話をしているうちに、河野さんから世武さんの名前が出て」




※続きは月刊Songs2018年9月号をご覧ください。

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